・長編SIGN15-3
・士官生スザク×声を失った皇子(総受け)
今回でスザクさんの出番があるはずだったのに、何ということでしょう。
髪の毛だけの出演でしたOrz
すみません・・・。
しかも諸事情により変な所で区切ります。
あまり日を空けずに続きをUPするように努力します(>_<)
SIGN 15-3
「そういえば貴方も手話を理解されているんですね。」
ごく自然に皇子の手の動きを読みとったロイドにカレンが素直な疑問を投げかける。
ルルーシュ皇子に近い人間は皆手話が出来る。そのことからこの初めて会う変わり者の研究者も皇子の親しい理解者であることが窺えたのだが、カレンにしてみれば何となくこの二人の組み合わせが意外であり、また僅かに嫉妬の念を覚えた。それは自分だけが皇子の意を汲み取ることができないという疎外感から生まれたものだろう。
そんな複雑なカレンの心中などお構いなしに、調子はずれな声が部屋に響き渡る。
「と~う~ぜ~んだよぉ。だって殿下は僕の大切な皇子様なんだから!」
「はあ?」
要領の得ない返答に先程の嫉妬のせいでささくれ立った心の内を刺激され、思いきり地を出してしまったカレンだった。
ロイドの言動に惑わされる人間を多く見てきたルルーシュは、幾つになっても変わらない性格に思わず小さな笑みを零していた。彼は確かに変わり者であるが、嘘や偽りは口にしない。しかし口にすることには相手の懐を見透かした上での計算尽くされた言葉であったり、または飾ることのないストレートすぎるものでグサリと確信を突くため、慣れないうちはうっかりと普段は隠している面を出してしまったりするのだ。
そんな奇才と呼ばれるロイドをルルーシュは出会った幼い時から信頼している。物心着く頃には既に人はいくつもの仮面を被って生きているのだと悟り、警戒心を持っていた自分からすれば不思議なくらいに自然に信用していた。それはきっと幼いながらに感じ取っていたからだろう、珍妙な言動に巧みに隠しているが、その実彼が他の誰よりも本音で生きていることを。
クスリと微かな吐息を手の内で零したが、それではあまりにもカレンが気の毒なのでルルーシュは助け舟を出すことにする。
(「ロイドの家はシュナイゼル兄上の後見なんだ。だから兄上とロイドは乳兄弟のように育って、それが縁で俺も小さい頃から付き合いがあるんだ。家庭教師をしてもらったこともある。もっとも生徒を甘やかしすぎて良い教師とは言い難かったがな。今ではランスロットのようにKMFの研究・開発を共にしている。」)
カレンと二人で出掛けるというので念のため用意しておいたメモ帳をポケットから出し、サラサラと本人同様線が細く流麗な文字を書いていく。書き終わった後、カレンに直接渡そうか一瞬悩んだが、自分の手に嵌められた漆黒の手袋に目をやり、一呼吸してからメモを差し出した。
それを申し訳なさそうに受け取ったカレンはピクリと震える手袋に包まれた指先には気が付かず、素早くメモに目を通す。
「そうなんですか。」
心を解すように冗談めいたことまでわざわざ書いてくれた皇子に頷きながらも、この二人の間にあるものは簡潔に書かれたこのメモの内容だけではないことをカレンは冷静に理解していた。
カレンの瞳に落ち着きの色を見たルルーシュは、余計なことを聞いてこない賢さを持った彼女を好ましく思った。
ロイドによって掻きまわされた室内の雰囲気はようやく落ち着きを見せたので、本題に入る。
(「スザク・スメラギの試験は終わったのか?」)
「スザク・スメラギ?」
誰だそれはとロイドは首を傾げる。
(「茶色のふわふわした髪で翠色の眼をした、何て言うか・・・。ほら、犬っぽい感じの。」)
ルルーシュは天然に失礼な所があるが、決して悪気はない。むしろこの場合は的確な表現だったため功を制した。
「ああ!彼ならちょうど今装置に入った所ですよぉ。ご所望でしたら呼んできましょうか?」
余計なことを聞かない賢さならロイドも負けてはいない。滅多に宮から出てこない皇子の突然の訪問と、名誉ブリタニア人学生との接点。それもよりによってあのエリアの人間。自分が離れていた僅かな期間に何かが確実に動き始めいることをロイドは感じていた。その変化が悪いものなのか、良いものなのかはまだわからなかったが。
(「いや、手を煩わせたいわけではないからいいんだ。」)
ほっそりとした幼さが残る頼りないような首をふるりと振った皇子に、ロイドは眼鏡の奥のアイスブルーの瞳を細めた。柄にもないような切なさが去来する感覚に、胸が騒ぐ。
あなたは今でも自分が生き残ったことを、あの地獄から助け出されたことを間違いだと思っているのですか?
15-4に続く。