ああ、嫌だわ。
辛くて耐えられない。
何がって?
院内に流れる優雅なモーツァルトくらいでは誤魔化されない気の遠くなるような治療のことでも、ちょっと信用できない主治医のことでもないわ。
それはもういいの。だって転院しようと決めたから。
そう、そんなことじゃなくて。
辛いのは明日でブログペットのるるうさとさようならをしなくちゃいけないこと・・・。
11月の半ばから育てて、僅かな命だったわ。
サービス終了という名の無慈悲な刃の前にはどうすることもできないorz
せっかく育ってきてくれたのに(:_;)
この間なんて「ともきって睡魔みたいに素敵!」とか、褒めてるのか貶してるのかわからない台詞まで言えるようになってくれたのに。
別れはいつでも辛いものね。
ふぅ。
るるうさとは今夜で涙ながらにお別れですが、これからもルル猫は可愛がってやって下さい(*^_^*)
そんなわけで。
スザクとルル猫 掃除編
「ねぇ、ルルーシュ。もうこれで許してくれないかい・・・?」
ガックリと床に膝をついて項垂れるスザクの前には、難しい事件を裁く裁判官のように厳しい雰囲気を漂わせている小さな黒猫。言わずもがな、スザクの愛猫のルルーシュだ。
「お願いだよ。もうこれ以上は・・・」
はあはあと肩で息をするスザクが手にしているのは薄黒く汚れた雑巾。
ルルーシュはすうと眼を細め、クルリと部屋の隅から隅まで見渡すと、優美な漆黒の尻尾をタシっと床に叩きつけた。
「ダメなのかい・・・?」
あうあうと情けない魔物のような声で喘ぐスザクに、さっさと手を動かせとルルーシュが、にゃうんと鳴く。
「ルルーシュ、君は卑怯だ」
にゃ~?
何を言い出すのだと、言葉を解する賢い黒猫は不快気に尻尾の先をゆらゆらと動かす。
「そんなに可愛い声で啼かれたら、絶対に言うこと聞いちゃうじゃないか!!もう本当に可愛すぎて罪だよ!犯罪だよ!」
異様に瞳を輝かせながら叫び始めたスザクに悪寒を感じて逃げようとしたルルーシュだが、残念ながら猫でありながら猫らしい俊敏さに恵まれていないため、アッサリと魔の手に掴まってしまう。
暴れるルルーシュなど、スザクにしてみれば恋人と夏の浜辺でじゃれあうような可愛いものである。にゃーにゃーと必死に啼く声も、ふわふわ頭の脳内では「あはは、うふふ~」という楽しげかつ多少の色気の含んだ音声に変換されていく。
ぎゅうぎゅうと柔らかな肢体を抱き締め、艶やかな毛で覆われた小さな顔に頬ずりを繰り返すスザクは黒い鼻にキスをしようとした所で僅かにバランスを崩し、その隙にルルーシュはするりと逞しい腕の中から逃げ出す。そのしなやかな肢体に眼を奪われたスザクはそこから更に大きく体勢を崩し、後ろに置いてあったバケツにぶつかり、なみなみと入っていた汚れた水とともに床に倒れ伏した。
ばしゃん!
掃除機をかけた後、水ぶき、から拭きを繰り返し、後はワックスでの仕上げを待っていた床に派手な音と共に汚水がぶちまけられ、Tシャツ短パンのスザクは全身ずぶ濡れになった。
難を逃れてソファーの上へと優雅に腰を下ろしたルルーシュは、雨の日に捨てられた犬のような姿になったスザクをいい様だとフンと鼻をならして見下ろした。
「女王様な君も素敵だ・・・!!」
熱のこもったスザクの変態的な声にルルーシュが恐怖のあまりソファーからずり落ちそうになったとか、ならないとか。
スザクとルル猫
掃除編
さて、この二人が何をしていたかというと、大したことをしていたわけではない。
単なる部屋の掃除である。
広大な屋敷には使用人がいて綺麗に掃除をしてくれるが、猫嫌いな彼女達はルルーシュの居るスザクの部屋には関わらないようにしている。
好き嫌いで仕事はできない。
以前はスザクが学校に行っている間に使用人が部屋を掃除していたのだが、猫にはどうせ言葉などわからないだろうと、掃除をする間延々愚痴を零していた彼女達に耐えられなかったのはルルーシュの方だった。
耳を塞いでも聴こえてくる悪意ある言葉に漆黒の身体の一部が白く色が抜けてしまった。初めは一見するとわからない程小さかったそれは日が経つにつれ範囲を広げ、水玉模様のようになってしまったそれを目にしたスザクはこの世の終わりのような叫び声を上げ、すぐさまロイドのもとへと連れていった。
その時の騒動の記憶はセシルの料理にも勝るとロイドも顔を顰めるため、次の機会にしよう。
とにかく、そんな事があって以来スザクは使用人を部屋には入れず、ルルーシュと自分だけの空間にしている。
となれば、自然と部屋が荒れてくる。
今までスザクは掃除というものをしたことがない上、細かいことを気にする質ではない故、一週間も経てば足の踏み場もない程に散らかり、部屋の隅には埃が溜まってくる。
そんな汚い場所に“皇族”と謂われるブリタニア種のルルーシュが耐えられるはずもなく、これまた一騒動あった結果、スザクは一週間に一回に徹底掃除することをルルーシュと契約したのだった。
その証拠に壁には「ちゃんと掃除します」というスザク自筆の念書の横にルルーシュの小さな肉球が朱肉で押されている。
しかしズボラなスザクがルルーシュを満足させるほどに掃除をするのは、全くの重労働である。
今日は特にバケツの水をひっくり返してしまったために、また一からやり直し。
「うぅ、ルルーシュとイチャイチャしたいよぉ~。せっかくの休みなのに、僕の手にはボロ雑巾だけ・・・。あうぅぅ」
えぐえぐと泣きながら床を拭き続けること一時間。
「これでいいでしょうか、皇子様」
ワックスをかけられた床はピカピカと光り、チェックをするために覗きこんだルルーシュの紫水晶の瞳が鏡のように映し出される。
にゃう!
合格!と重々しく頷いたルルーシュを前に、スザクはホウと力を抜き倒れ込んだ。
天上を見上げ、瞼を閉じたスザクの胸の上にちょこんと座ったのは、ルルーシュなりのご褒美である。
「はあ」
疲れ切ったような息に、ルルーシュは心配そうに首を傾げた。
「ああ、ごめんね。大丈夫、汚す僕が悪いんだし、綺麗になった部屋は気持ちいいよ」
気遣うような紫の視線に気が付いたスザクは、んっと腹筋だけで身を起こすとルルーシュを優しく抱き締めた。
「本当はブリタニア種が快適に住めるような環境じゃないのに、それでも君は僕を選んでくれるんだよね。ありがとう」
ルルーシュの目の上にそっとキスを落とすと、スザクは陽だまりのように微笑む。
「だから僕はそんな君の気持ちに応えたいって思うんだ」
この手の中のぬくもりに瞳を閉じる時、胸に込み上げるこの気持ちこそが「愛おしい」という感情なのだと知る。
「掃除はまだまだ苦手だけど、頑張るよ」
大切な君のためなら、僕は何でもしよう。
小さな三角の耳の後ろを掻いてやると、気持ち良さそうに目を細めたルルーシュに蕩けるような眼差しを注ぐと、スザクは綺麗になった床の上に再び寝転がった。
仲良く寄り添う二人の上には長さを伸ばした冬の温かな日差しが降り注いでいた。
「え?年末は大掃除?これじゃだめなの・・・・?」
にゃ~。
(当然だ!)
スザクとルル猫
掃除編
THE END