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ルルへの愛を語ったり 日々のことを綴るともきの日記
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たくさんの拍手や本の感想をありがとうございました!
とっても元気が出ました^^
レスは明日させて頂きます。


さて。
すっかりとお待たせしてしまいました。
前のお話はカテゴリーの「ギアスSS」の中に入っています。
見づらくてすみません。


THE CRUEL STORY 後編3

・ゼロレク後
・ナナリー厳しめ
・ナナリーには救いなし





唯一変わらなかったであろう癖っ毛に白い指先で触れ、そのまま指を下ろして額をなぞるとまだ温かな体温を感じられる。手を伸ばせばすぐ届く距離にあったぬくもりに、今まで一度も触れることのできなかったという事実に今まで堪えていた悲しみが沸き上がり、薄紫色の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。



「あの日、ゼロ・レクイエムの映像は気が付けば何者かの手によって全て消去されておりました。個人で撮影していた者がいるはずもなく、あの日のことはただただ見ていた者たちの脳に記憶として収められるだけとなりました。あのような衝撃的な光景を忘れたくとも忘れられるはずがないと、多くの人々が口にしていましたね。私は、他の誰よりも近くで兄が倒れる所を眼にし、息を引き取るその瞬間まで見ていたというのに・・・」


ナナリーは溢れる涙を人差し指で拭いながら眠るスザクの顔を焼き付けるようにじっと見つめる。



「わたしは」

 

 

 




THE CRUEL STORY

  

 

 

 

脳裏にあの日の眩しい青空が蘇る。あの日の風も、あの時兄が燃やされた匂いも、消し炭のような欠片も鮮明に覚えている。
けれど・・・。


「お兄さまのお顔を覚えていないのです」


誰も聞くことのないナナリーの声は白い紙の上に一滴落ちたインクの染みのように、静かな部屋の中にジワリと広がって霧散していく。


「幾ら思い出そうとしても、無駄でした。眼を閉ざす前に見ていた幼い兄の顔ですら朧げで、どんな表情も思い浮かべることはできませんでした。あの日、あの時確かに兄の亡骸に縋り、死してなお美しいお顔を目にしていたはずなのに」


今まで誰にも言わずに胸の中に仕舞っておいた告白を言葉として発しても、胸の痞えは取れることはなく、逆にその痛みが増しただけであった。ギリギリと体の奥を細い針金で締め付けられるようなそれを、ナナリーは甘んじて受け入れた。


「私は、お兄さまのお顔を忘れてしまったのです」


安らかに眠るスザクは、兄の顔を覚えていた。極当たり前のように諾と頷いた。
兄の微笑み一つ記憶にない自分とのこの残酷なまでの落差は、きっと自分への罰なのだろう。


「兄の死後、私は必死に兄の画像や写真を探しました。けれど何一つ出てくることはありませんでした。クロヴィスお兄さまが描いて下さった幼き頃の絵すらも、フレイヤにより消え果ててしまいました。ミレイさんやカレンさんに頼めば、もしかしたら写真の一枚もあったのかもしれませんが、それをするのは卑怯な気がして出来ませんでした。――いえ、正直に申し上げましょう。私は彼女達に己の醜さを曝け出す勇気がなかったのです。スザクさん、先程仰いましたよね。『何よりも愛した君でさえも』と。けれど誰よりも愛された私は、優しい兄の顔を思い浮かべることすらできないのです。あなたが脳裏に何度も蘇ると言っていた兄の声も、私はもう随分と昔に忘れてしまいました。毎日毎日、欠かすことなく兄のことを想っておりましたのに、唯一確かであったお声でさえも時とともに色褪せ、ある日突然思い出せなくなりました」


抜け殻となったスザクの頬に刻まれた皺をそっとなぞる。


「時の流れというのは、人の記憶というのは本当に頼りなく、何て、何て残酷なのでしょう」



あんなにも傍にあったぬくもりも。
春の日差しのように降り注がれた優しい声も。
惜しむことなく向けられていた愛の眼差しも。
髪の一筋すら残らなかった兄のことを。
何一つ思い出すことができない。



「お兄様の存在の証は、ゼロに弑逆された悪逆皇帝という歴史の中だけ。写真や映像は愚か、遺体も、お墓さえもないお兄さまが下さった優しい世界の息吹を守らなければという意識だけで今まで生きて参りました。しかしもうそれも長くないことでしょう。けれど、きっと・・・」


老いた己の手のひらを見つめる。その指先はナナリーの心を表すように小刻みに震えていた。


「お兄さまはスザクさんの時のように迎えに来ては下さらないでしょう」


死後が穏やかであると、誰が言えるだろう。
兄や、スザクは間違いなく穏やかで平穏に過ごしていることだろう。
けれど後悔と言う名の怨念に取り憑かれている己は、彼らのように満ち足りた表情を浮かべて眠りに就くことなどできない。


「出来ることならば、腕の中にもう一度抱き直して欲しい。優しい声で名を呼んで欲しい。柔らかな手つきで髪を撫でて欲しい。そしてお兄さまの瞳を見つめて、愛していますと伝えたい」


けれど。


「きっと、私には許されないでしょう」


ナナリーはそっと目を伏せ、淋しげな微笑みを乾燥した頬に浮かべた。


「たとえ独りで彷徨うような結末であっても受け入れましょう」


幼き頃のように瞼を閉じて浮かび上がる走馬灯のような映像の中に、渇望する愛しい兄の姿はない。


「だって誰よりも何よりも残酷なのは、世界を震撼させた悪逆皇帝でもなく、民衆の前で遺体を燃やした英雄ゼロでもなく、唯一であった兄の顔も、声ですらも忘れてしまった私ですから」


一筋の涙を流し終えると、ナナリーは兄の元へと旅立ったスザクをもう一度見つめた。決して彼の顔を忘れることのないように、じっと、じっと。
そうしてよく見てみれば眠る男の顔はどこかあどけなく、幼い子どもが安心してうたた寝をしているようにも見える。
ふわふわとした髪を掻き上げ、蒼白の額に小さなキスを落とすと、ナナリーは顔を上げて静かに部屋を出て行った。

 

命ある限り、生きていかなければならない。
それがどんなに残酷であろうとも。
たとえ、愛しい人の顔を忘れ去ってしまっても。
生きていかなければならない。
それが唯一兄に出来る償いであるから。

 


THE CRUEL STORY

THE END





忘れて欲しかったルルーシュと忘れることを受け入れても覚えていたスザクと忘れることを許せなかったナナリー。
 
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