・スザクとルル猫 人肌編2
・前回の1も合わせてUPしておきましたので、2には少し下の方になります。
・少し量が少なめですが(汗)、アンケートで『少なくても更新が多い方がいいよ!』に入れて下さった方が多数いらっしゃることに背中を押して頂いての更新です<(_ _)>ありがとうございます!
そういえば、1で「瀕死のゾンビ」と表現したのですが、ゾンビはそもそも死んでいることに今気がつきました。彼らはいつでも瀕死でしたね・・・。
収納するときには何か違うものに変えておきま・・・す・・・多分・・・
そもそもゾンビって何だろうと考え始めたらわからなくなったともきです^^;
ググってきます(笑)
スザクとルル猫 ~人肌編1~
「あ゛~う゛~、あ゛~」
どうしたら人間ここまでウザクなれるのだろうかというくらい最大級にうざったらしい声を上げているのは、もちろん枢木スザク。机に顔を埋めて、新手の妖怪のよう奇怪音を発している。
そこに運悪く生徒会の資料を渡すように頼まれてやってきたカレンは他の生徒が遠巻きに見ている円の中心にスザクがいるのを見て、ゲっと顔を顰めた。
「ちょっと!いつも公害だって言ってるでしょ!何なのよ!」
手にした資料でバシバシとスザクの頭を遠慮なく叩くと、のろのろとスザクが顔を上げた。
その顔色を見て、カレンはぎょっとする。
「ちょ!あんた、もしかして風邪?」
ノートの痕をくっきりと頬に付けたスザクの顔色は青白い。
まさかスザクに限って、季節の変わり目だからという極一般的な理由で体調を崩すはずなどなかろうとわかっていてもつい声をかけてしまうのは人情というものだろう。
「ううん、ただの寝不足・・・。」
普段イラっとくるくらい張りのある声は、今は蚊が鳴くような音でしかない。
どうやら相当深刻な寝不足らしい。
「そういえば最近やたらと寝むそうだったわね。じゃあ寝ればいいじゃない。何やってんのよ。」
寝不足ならば夜早く眠りにつくなり何なり、生活習慣を改めればいい話だ。
どうしてここまで重症になるまで放っておいたのだと呆れたように息を吐いたカレンに、瀕死のゾンビが渾身の力を振り絞って襲いかかってくるような動きでスザクがガバっとダレていた体を起こした。
「そんなことできるわけないじゃないか!!」
「はあ?」
何だコイツ、と内心引きながらカレンは本能で悟っていた。
このスザクの異様なテンションには身に覚えがありすぎるのだ。
ということはスザクの寝不足の原因は十中八九・・・
「だって、僕が寝たらルルーシュが・・・・。僕の可愛いルルーシュが・・・。うぅ。ううううう。」
何を想像したのか嗚咽まで漏らし始めたスザクに氷の視線を降り注ぎながら、カレンはどうしてこの猫馬鹿に声をかけたのかと数分前の自分を殴りたいような気分になった。
事の始まりは一週間ほど前に遡る。
どんな気紛れなお姫様でももう少し弁えているだろうと罵りたくなるほどに季節は急に移り変わった。それはまるで紙芝居で紙を一枚捲ったらお話は一年後とでも言うような唐突さ。
しかし当然スザクはそんなことにはまるで関係がない。
脅威の体力馬鹿にはササヤカな気温の変化など大してことではないのだ。
「ん?ちょっと涼しくなったかな~。」と思った朝には雪が降っているような男なのだから。
しかしそんなスザクであっても小さな黒猫が来てからはそうも言っていられない。
この黒猫はとても繊細なのだ。
クチュン!
小さなくしゃみが響いた瞬間、遠くにいたスザクは誰もが目を見張るような人外なスピードでルルーシュの元へと駆けつけた。
「大丈夫!?」
大事に大事に小さな体を抱き上げて腕の中に収める。大きな紫色の瞳を覗きこむと、大袈裟だと言うように目を細められたが、体からは余分な力が抜けており、スザクに甘えるようにすり寄ってきた。
その強気な視線と仕草のギャップにたまらないものを感じたスザクは身悶える。
「君は本当にかわいすぎるよ!可愛すぎる罪とかあったら即捕まっちゃうよね!でもそうなったら僕が守るから安心してね!」
君のためなら国を捨てて亡命でもしてみせる、と白黒映画に出てきそうな台詞を素晴らしく輝くような笑顔で宣うスザクにルルーシュは、「大丈夫だろうか・・・」と憐れみの視線を送っていた。
スザクとルル猫 ~人肌編2~
スザクがルルーシュに対して異常な反応をするのは今に始まったことではないが、この季節は特に敏感になっている。
それは去年の今頃ルルーシュの体調の悪さに気がつかなかったために、風邪を悪化させて黒猫に辛い思いをさせてしまった時の胸の痛みが今もまだ残っているからだ。
いかな体力馬鹿と称されるスザクといえど、自分の命よりも大切と言って憚らないルルーシュのことであれば、僅かな学習能力を最大値まで上げるのだ。
「そういえば今日は少し涼しくなったね。だからかな?」
実際は少しどころの騒ぎではなく、10度以上気温が一気に下がったのだがスザクにとっては大した差ではない。
体調を確認するように柔らかな背中を手のひらで包みこむように上下させながら撫でていると、スザクの体温が心地良く感じたルルーシュはしばらくすると逞しい腕に抱かれたままウトウトと瞼が下がり始める。
「あれ?ルルーシュ眠たいの?」
猫は食べる、遊ぶ、寝るが仕事のようなものであるが、ルルーシュは日中は割と起きているタイプだ。活動的に動くことはしないが、その代わり何かを考えるように首を傾げていたり、スザクが床に放置しておいた教科書なども覗きこむようにして見ている時も多々ある。その姿はまるで字を理解しているようであって、運よくその光景を目にすることができた時はルルーシュのために買った高性能一眼レフをこっそりと持ちだし、障子の影に隠れて撮影する。堂々と正面から撮らずに、盗撮するようにカメラを構えるのは、ルルーシュがカメラ嫌いだからだ。正確に言うと、一人で写されるのが嫌いらしい。ルルーシュが一人でいる時にカメラを向けると、丸いレンズに可愛いピンクの肉球をギュウギュウと押して毛を逆立てて怒るのだ。しかし不思議なことにスザクと二人で撮られたり、彼が溺愛する妹弟達と撮る時はすまし顔をして白いヒゲもピンと立てる。
ルルーシュが嫌がる姿も猛烈に可愛いと顔を蕩けさせるスザクだが、やりすぎると完全に臍を曲げて視界にも入れてもらえなくなるのでほどほどにしなければならない。という事情があり、ルルーシュ一人を撮る時は大体盗撮である。
というようなスザクの変態、もとい涙ぐましい小話はまたの機会にじっくりと。
とにかく、起きている時間が意外と長いルルーシュがこんなにも眠たそうなのにはわけがあるのだろうとスザクは考えた。
「もしかして昨日の夜よく眠れなかった?」
に~ぅ。
問いかければ非常に眠たそうな声が返ってきた。
ルルーシュが寝不足の原因はなんだろうか。
物理の授業中よりもよほど頭をフル回転させて真剣に考え込んだ末に、ふと己のベッドが目に入った。そこには掛け布団も何もなく、シーツだけが白い波を作っている。暑がりなスザクは夏の間は何も掛けずに寝るのだが、熱帯夜ならまだしも虫の音が聞こえてくるような季節の寝具としては寒々しい。
「あっ、布団がなくて寒かったのか。」
ブリタニア種はその美しい毛皮が残念ながらあまり活かされない珍しい種である。つまり暑さにも強くないが、寒さにも弱いという、きちんとした管理と世話が必要不可欠な難しい猫なのだ。だからこそ世界にそう何百もいない貴重な種類なのである。
「どうしよう、冬の布団出す・・・?」
それは暑い。
想像しただけで蒸されるような気がして思わずため息を吐いたスザクの腕の中ではルルーシュがスピスピと寝息を立て始めていた。手の中の愛おしいぬくもりに優しく目を細めて、ルルーシュの額にそっとキスをする。
「ルルーシュが元気でいてくれるなら少しくらい我慢する!」
そう笑って、ルルーシュを陽だまりのクッションの上に貴重な宝石を置くようにそっと下ろすと、スザクは家政婦のもとへと軽やかな足取りで向かったのだった。
3に続く