・鏡合わせの皇子と玩具騎士 七夕編2
・この双子はともきの思惑をいつも全く無視してくれるために、お話が進みません・・・Orz
仕方がないので、納豆編(=クルルギさんの誕生日)と組み合わせることにします。
隙間なく生い茂る笹の葉を掻き分け、何とかクローゼットを開けることに成功したスザクは中から騎士服を取り出すと、パジャマ姿のまま廊下に出た。
「何をやっているんだ?」
たまたま通り過ぎた隣人が眉をしかめてスザクを見てきた。
それもそうだろう。ここは規律の厳しい軍の宿舎であり、それもスザクはナンバーズ出身としては異例だとしても仮にも騎士であるから、それなりの地位の軍人の部屋が集まるフロアの住人であるのだ。そのフロアの人間が、寝ぐせだらけの頭をして黒猫ちゃん柄のパジャマ姿で出歩いていていいはずがない。
これだからナンバーズはブリタニア軍の品位を落とすのだと言いたげな視線を送ってきた隣人だが、開けっぱなしだったドアからチラリと覗くスザクの部屋の惨状を見て責める瞳の中に憐れみの色が足された。
スザクと言えば、鏡合わせの皇子という方程式が成り立っているためすぐに何があったのか悟ったのだろう。
皇帝ですら手に負えない悪戯好きで有名な双子の悪名は軍でも有名なのだ。
隣人はそれ以上何も言わずに、ただスザクの肩をポンと叩くと静かに自分の部屋に入っていった。
「うぅ・・・。」
あまり良好とは言えない隣人との仲は何故か急速に近くなったようだが、それは他人の不幸という甘い蜜が引き寄せた何とも言えない結果だったため、スザクは思わず情けなく涙を零しそうになった。
同じフロアの住人からの好奇の視線の中、スザクは泣く泣く廊下で下着姿まで晒し、騎士服へと着替えたのだった。
鏡合わせの皇子と玩具騎士 七夕編2
「遅れて申し訳ありませんでした。」
まだ午前中だというのにげっそりとやつれた顔をスザクは神妙に下げた。
というのも、着替えたのはいいものの、その他に騎士として常に携帯していなければならない諸々のものを部屋の中から取り出すのに時間がかかってしまい、全てを手にした時には双子のもとへ参上しなければならない時間を過ぎていたのだ。
本当はこんな迷惑でしかない笹などへし折るか、切り裂くか、とにかくストレス発散をかねて撤去してしまいたかったのが、コレを用意したのが十中八九己の主だと思うと無碍にすることもできなかった。
明らかに双子が原因だとしても、遅れたのはスザクの責任でありここは頭を下げなければならない。
白い大理石の上に最高級の絨毯を敷き詰め、その上に腹ばいになって形の良い頭を突き合せている鏡合わせの皇子達は、部屋に入ってきたスザクを見ると花を綻ぶように笑った。
「遅いぞ、スザク。」
「何をぼんやりと」
「立っているんだ。」
「ほら、」
「こっちに来い。」
白い二つの繊手が柔らかに光の中で手招きする様子はまさに天国へ迎え入れる天使のようだ。
騙されてはいけないと思うのに、双子達の10時のおやつであろうお菓子がほんのりと甘い香りを部屋中にもたらし、スザクの更なる錯覚を促進するのだ。
いけないと思いつつも、結局スザクは苦笑して肘を床に着いてうつ伏せになって何かをしている主達のもとへ向かった。
「何をなさっているんですか?」
よく見ると双子の回りには細長い紙が二人を中心に放射線状に散らばっている。その数ざっと数百枚。色とりどりの紙はどこか見憶えがあるようで、スザクは首を捻った。
すると双子は手を止めてきょとんとした。
宝石のような紫色の4つの瞳が心外だとばかりにスザクを見つめてくる。
「え・・・?」
何か変なことを言っただろうか。
固まってしまったスザクを見ていてルルーシュがはぁとため息を吐いた。
「ゼロ・・・。」
「わかってる。」
よしよしとルルーシュの黒髪を撫でてやるゼロは、床に置かれていたガラスの器から先日キョウトから取り寄せた最高級の金平糖をルルーシュの口に運ぶ。
親鳥から餌を受け取るように素直に口を開けて金平糖を含んだルルーシュはお返しというように、同じように器から金平糖を一粒取り、ゼロの口元へ持っていく。
かりかりと金平糖を砕き、その甘さに二人で目を合わせて微笑み合う。
「あ、あの~。」
気を抜くとこの二人はすぐに二人だけの世界に入ってしまうのだ。
居た堪れなくなったスザクが声をかけると、ゼロに厳しい目を向けられた。
「お前、今日が何の日か」
「忘れたのか?」
今日も綺麗に一つの分をシェアする双子の大きな目には『がっかり』と書かれている。
「えっと、今日ですか?ええ・・・、何かあったかな・・・。」
双子の誕生日は冬だし、何かの記念日というのも思いつかない。
必死に頭を探るか全くわからない。
その様子を見ていたゼロとルルーシュは顔を見合わせて一つ大きなため息を吐いた後、同時にふふっと笑いだした。
「仕方ないな、ゼロ。」
「ああ。仕方ないな、ルルーシュ。」
「多少がっかりだが」
「予想外の反応をしてくれなきゃ」
「俺達がスザクを」
「「選んだ意味がない。」」
にっこりと笑った二人は更に続ける。
「まあ、さすがに」
「ここまで頭の回転が鈍いとは」
「さすがの私達も」
「予想できなくて」
「「当たり前だな。」」
何気に酷いことをさも楽しそうにニコニコと言う双子の中身は無邪気な悪魔に違いない。
後編へ続く。