日本人の知らない日本語パロ
~日本を愛する彼と彼ら~
僕、枢木スザクは外国人に日本語を教える日本語学校で教師をしている。
色んな国から様々な人達が集まるこの学校の日常はとてもカオスだ。
例えば、
アメリカ人のジノという大柄な生徒が授業中座って発言していたので、僕は
「立って言って下さい。」
と言ったら、
「た」と一言返された。
う、うん。そうだね、さすが自由の国から来ただけあるね、ジノ。
君はいつでもフリーダムだ。
フランスに城を持っているというマダム、マリアンヌさんは自己紹介の時に
「おひかえなすって!!私マリアンヌと申します。」
と言い、僕の度肝を抜いてくれた。
どうやら彼女は任侠マニアらしく、フランスにいた頃の日本語の教材は任侠映画だったそうだ。
「私のことは姐さんと読んで下さい。」
とごく当たり前のようににこやかに言われ、僕はユーモアのない日本人の代表のようにただ、
「呼べません。」
と顔の前で手を左右に振りながら冷や汗を掻くことしかできなかった。
そうしたら、
「水臭いこと・・・!!お言いでないよ。」
と返された。彼女はまったくつわものだ。
そんなマリアンヌさんと仲が良いのはスウェーデン出身のシャーリーさんだ。
彼女の留学の動機は黒澤映画に憧れたからだ。
スウェーデンというと、「べルバラ」のフェルゼンしか連想できない僕は、ふと思いついてシャーリーさんに聞いてみた。
「スウェーデンで日本って知られてるの?」
シャーリーさんは笑って首を振った。
「ぜんっぜん!だから私が日本に行くと言ったら、〝そんな野蛮な国に言ったら危ないよ!”とか、〝武士に斬られたらどうするの!?”って反対されたんです。」
「ど、どうやって説得できたの?」
「それはですね、〝日本はみんなが思うような未開の国じゃないの。大丈夫。武士には魂があって一般人に手を出したりしないから”と説得して分かってもらいました。」
「それでよく周りの人も納得できたね・・・。」
シャリーさんは夏に不法侵入してくる黒びかりするアイツを初めて見たときに、カメラを探したという、これまた凄い人だ。
まったく女性はたくましいと僕なんかは思ってしまう。
そんな個性の強い生徒がいる僕の学校にある日、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアという、実に美しい響きの名前を持った、月の女神すら嫉妬してしまうような輝く容姿の少年が入学してきた。
驚くべきは彼の容姿だけではない。
なんとルルーシュ君はあの超大国ブリタニアの皇子様なのだ。
彼が入学してきてしばらく学校は大騒ぎだった。
マスコミは来るし、女生徒のみならず男子生徒までもが彼を一目見ようと教室に押し掛ける騒ぎ。
(教室のドアについている小窓にはたくさんの生徒が顔を押しつけるために酷くオイリーになってしまい、僕は放課後にそっとそれを掃除している。)
ルルーシュ君は注目されるのは慣れているらしく、とてもクールで全く気にしていない。
押し掛ける生徒を叱りながら、授業中にルルーシュ君の容姿に見惚れてしまう僕は教師失格なのかもしれない。
だってルルーシュ君がため息をつけば、その可憐な唇からは花びらが零れ落ちてきそうで何となくドキドキしてしまうし、冗談のように長い睫毛が白い陶磁器のような頬に影を作るのを見てしまうと、どうしようもなくそのミルク色の頬にキスをしてみたくなってしまうのだ。
僕はどうやら重症のようだ。
ルルーシュ君の魅力は何も外見だけではない。
その中身は外見から想像も出来ないほど面白く(彼は大真面目だからもしかしたらこういうのは失礼かもしれないが)、とても奇抜だ。
とにかくユニークな人なのだ。
どういうことかエピソードを紹介しようと思う。
ルルーシュ君に質問をされたので、彼から仄かに香る極上の香りに色んな所を刺激されながらも教師らしく丁寧に彼の疑問に答えた僕に、
「そうでござるか。」
と言ってきた。
なんだ、その武士言葉!?
まさか、武士好きのシャーリーさんの影響なのか!?
そういえば、昨日の昼はルルーシュ君とシャーリーさんは一緒にご飯を食べていたな。
言葉が移ってしまうほどいつの間に仲良くなったんだ!?
異様に焦る僕に、ルルーシュ君は真面目な顔で鞄から本を取りだした。
「シャーリーさんから習った?いえ、違います。私の持っている教科書にのっていました。ほら、ここです。」
と本を開いて見せてくれた。
そこには確かに
“ござる=~ですの謙譲語″と書かれていた。
何時代の本なんだろう。
ちなみにその本を貸してもらったら(別に彼の物が欲しかったわけでは、決してない)、例題にこんなものが書いてあった。
「素敵なお召し物ですね。」
「いえ、こんなのはぼろでございます。」
なんか凄い教科書で勉強していたんだな、ルルーシュ君・・・。
今度一緒に本を買いに行ってあげようと思った。(決してデートをしたいわけではない)
さすが皇子様だと仰天したこともあった。
ルルーシュ君が一時帰国するのでお土産を買いたいと言ってきたので、僕がついていってあげることにした。(やましい気持ちは決っして、なか、った。)
何気なく靴屋に入ると、日本の靴のデザインが気に入ったと、クールな顔を子どものように紅潮させて、おっきな葡萄色の瞳をキラキラさせた。
その表情の可愛らしさに僕はあやうく店先で鼻血を噴き出すところだったが、次のルルーシュ君の発言で吃驚したおかげで血はかろうじて鼻の中で止まった。
「じゃあ、これ全部下さい。」
ええええ!?
驚く僕にきょとんと首を傾げて、艶やかな黒髪を揺らしながらルルーシュ君は実に爽やかに微笑んだ。
「家の者だけじゃなくて、使用人にもあげたいんです。でもサイズも好みもわからないので。とりあえずこの店にあるもの丸ごと買います。」
優しいルルーシュ君の背後にブリタニア皇帝、つまり彼のお父さんの時代錯誤の不思議なロール型の髪型がチラリと見えた気がした。
彼との将来には色々と問題があるかもしれない。(嫁にもらうつもりだ)
でもルルーシュ君の可愛らしい頬笑みの前にはそんな障害何も気にならない。
彼が欲しいというなら、日本の象徴とも言える富士山だって彼のものにしてやろう。
うん。
そんなことを誓った日だった。
今日は一時帰国していたルルーシュ君が日本に帰って来る日だ。
僕は学校を休んで彼を空港まで迎えに行くつもりだ。
そして明日からまた日本語を教えてあげよう。
いつの日か日本語以外のことも教え込んであげる計画は、まだ誰にも知られてはいない秘密だ。